シリーズ1:環境インタビュー|一般社団法人地球環境情報フォーラム

シリーズ:環境インタビュー

協会役員をはじめ会員企業の皆様に、UNEPに対する想いや環境への取り組みなどについてインタビューを行いました。

シリーズ1
日本UNEP協会 鈴木基之代表理事
シリーズ2
株式会社T&Dホールディングス
シリーズ3
日本UNEP協会 平石尹彦理事
シリーズ4
トヨタ自動車株式会社
シリーズ8
株式会社エッチアールディ
シリーズ9
日東電工株式会社

第1弾:
日本UNEP協会の鈴木代表理事が、環境問題に対する考えとともに、協会に込めた熱い想いを語る――。

将来の地球、将来の世代のために
「貢献する喜び」を

鈴木基之(すずき・もとゆき)/東京大学大学院工学系研究科程修了、工学博士。東京大学生産技術研究所教授を経て、のちに同所長。国際連合大学副学長、同特別学術顧問、放送大学教授、東京工業大学監事(非常勤)、環境省中央環境審議会会長を歴任。専門は環境化学工学。学会等:日本水環境学会会長、環境科学会会長、日本吸着学会会長、国際吸着学会(IAS)会長等を歴任。環境科学会学会賞(1990)、化学工学会学会賞(2000)、国際水学会(IWA)Jenkins Medal(2000)を受賞。現在、東京大学名誉教授。

日本UNEP協会設立の経緯

まず、「そもそもUNEPとは何か」ということですが、1972年に初めて環境に関する世界規模の会議(国際連合人間環境会議)がストックホルムで開かれ、同会議で採択された人間環境宣言および環境国際行動計画を実施に移すための機関として設立されたのがUNEP(国連環境計画)です。国連総会の補助機関で、2012年に40周年を迎えています。

環境問題に関しては、国連の枠内においても、これまでさまざまな活動が行われてきました。1992年リオデジャネイロの国連環境開発会議(UNCED)で「アジェンダ21」が採択され、国際的にも環境に対する関心が高まりました。ただ、残念ながら言葉はよく知られていましたが、中身がどこまで実現しているのかもわかり難いくらいいろいろな希望が織り込まれ、いわば「21世紀はこうなって欲しい」との願望リストとなっていたものです。

それから更に20年経って、2012年に再びリオデジャネイロにて開催された「国連持続可能な開発会議」(リオ+20)の成果文書「我々の望む未来」においては、環境問題の一層の拡大の上に、持続可能な社会像を描いていくことが必要であり、そのためにも、UNEPをもっと強化しなければいけない、ということが盛り込まれました。

「国連持続可能な開発会議(リオ+20)」外務省サイトより

国連環境計画(UNEP)は、 FAOや、WHO、UNESCOのような独立性を有する専門機関とは異なる「プログラム」として、国連内でも多様なところで行われている環境への取り組みの調整役を果たす機関として位置づけられ、そのために独自で活動しにくかった面や、他のところとの調整に手間取るなどもありましたが、40 年間の歴史には見るべきものが少なくありません。

しかし、リオ+20の成果文書に「UNEPをもっと強化すべき」と盛り込まれていることに象徴されるように、あまり知名度が高いとは言えず、また環境への関心は世界中でも高まっているなかで、UNEPの役割はまだまだ高められるのではないか、と期待されています。日本においてもそれは同じで、残念ながら「UNEP?なんかどこかで聞いたことがあるかもしれない」が、どういう活動をしているのかよくわからない組織という印象があるようです。

日本は先進的に公害問題をはじめとして、いろいろな環境問題へ取り組んできた実績を持っています。そういう日本の環境分野での問題解決能力を、UNEPの活動になんらかの形で反映させることができれば素晴らしいでしょう。日本の持っている知力、技術力などの面でのポテンシャルを将来の持続可能な世界の構築に役立てるようにすることが必要でしょう。これまでUNEPの広報活動は「地球友の会」を通じて日本にも紹介されてきました。今回、これらの状況を活かして、UNEPの活動と一体化して活動する「日本国内委員会」の機能を果たすものとして、「日本UNEP協会」が立ち上がっていくことになりました。

環境問題と日本UNEP協会の役割

環境に関しては、世界中で課題があります。

いろいろな分野で新たな問題が起こっていますが、結局その根本にあるのは、この限られた大きさの地球上で、人類の活動が大きく膨らみすぎていることです。身近なところでは、生産活動や消費活動から発生する、たとえば、温室効果ガスに起因する地球温暖化、これによる自然災害の多発、異常降雨の頻発化などが見られます。陸上の人間活動が高密度となれば、そこから派生する排水に含まれる栄養塩は最終的にはすべて海に流れてゆき、徐々にではあっても大規模な海洋環境に変化を与えることになります。海の大きさも有限です。海が変わっていくと地球そのものがどう変わっていくことになるのか、予測を超えた課題でもあります。もちろん、人間生活に近いところにある沿岸域の環境が変化を見せていることは周知のとおりです。

陸上の森林は地球全体の気候システムにおいても重要な役割を果たしていますが、同時に、遺伝子資源や食糧資源、野生動物の棲息域を提供するなど重要な存在です。気候変動による森林の劣化、さらには開発のための森林伐採の拡大などが巡り巡って人類の生存に影響を与えることにつながります。このほかにも数えきれない、複雑に絡み合った環境問題を目前にし、我々は一体どう生きていくべきかという問題の答えを見つけていかなければならないのです。これはすべての人の力を総動員しなければならない問題ですし、我々の生き方そのものを変えなければいけない問題です。

こういう時代に入りつつあり、色々な背景のもと、UNEP自身がどういう役割を果たせるか、日本としてどのような協力関係を築くべきか、自分たちが何をすべきかということを、日本UNEP協会が架け橋となって一つ一つ構築していくことが役割のように思います。

民間企業・民間団体においても、環境意識の高い企業の数は増えつつあり、社会貢献(CSR)やガバナンスの一部として、企業活動にも取り入れられているところもあります。国連と企業とのかかわりに関して、国連グローバルコンパクトという一つの仕組みがあり、これは、企業活動のもとになる10項目の基本精神を、自主的に遵守することを宣言し、毎年点検を行うというもので、日本でも200社以上がこの活動に参加しています。その10項目の中で3項目は環境に関連することで、企業の方々も自分たちの規律の一部として、環境に関して積極的に関与しよう、何かしようという気持ちをお持ちだと思います。

さらに、CSR(Corporate Social Responsibility)、つまり企業がその活動を通じて社会に収益に一部を還元するという活動も、多くの企業が努力されています。私は、グローバル化したこの時代においては、企業の活動も地球上の思わぬ地域に影響を及ぼし、またそれらの地域から恩恵を受けて推進されて得るものも大きいと思います。企業の果たすべき責任の一つとして大きいのは、「地球に対する責任」ではないかと思います。その意味で、CGR(Corporate Global Responsibility)、「企業のグローバルな地球環境に対する責任」を考えていく時代になってきていると思います。事実、このような意識で活動を行っておられる会員企業もおられ、素晴らしいことです。このような活動に、これから関心を持たれる企業も、なかなか、1社でできることは限られることでもあるかと思います。それを一つの力にし、たとえば、思いを一つとする複数の企業がまとまって活動を始めるなどの際の受け皿として日本UNEP協会が役割を果たせればと考えています。

やりたいこと、やらなければならないことはたくさんあって、それを具体化するために、民間の方やNPOの方々の知恵と力をお借りし、結集できるようなプラットフォームとしても、日本UNEP協会が役割を果たせるのではないかと考えています。もちろん、UNEPは国連の機関でありますので、連携を取るに際しては、我が国の外務省、環境省と連絡を取り合って進めていくことは不可欠です。協会の活動が発展していきますと、日本の環境行政や、国際的な環境活動にもお役に立つようにもなることでしょう。そこに向かい、step by stepで進んでいこうという段階です。UNEPに対する幅広い関心を持ってもらい、あまりに高い目標や縛りをつけるのではなく、自分・自分の関心や興味を大切に、さまざまな枠組みの中で、会員それぞれとしての想いを形にし、その他の活動を通じて参加者の意識を高めて取り組みが具体化するということにつながっていけばいいと思います。

持続可能な人間活動がどうあるべきか。最大の課題です。経済成長なくして持続可能もないだろうという考え方もあるかもしれません。しかし、やはり地球の容量(キャパシティ)は限られているという中で、どうやって拡大する人間活動の最適な仕組みを考えていくか。いつまでも高度成長が続くことはありえませんので、我々自身の「考え方」をいかに変えていくかということこそが一番大きな課題かもしれません。

「持続可能な開発」(Sustainable Development)――この言葉がポピュラーになり始めた1984年頃は、それは先進国の一方的な考えで、途上国としては、もっと自由に発展することが必要で、開発が制限を受けるようなことがあってはいけないという主張が大半でした。地球上では、今もそういう国のほうが圧倒的な人口を占める中で、それら途上国を犠牲にした取り決めはできません。先ず、最貧国や途上国の人々のベーシックなニーズを満たすことを第一に考えながら、発展しすぎたところはどうやって縮小し、持続可能な形にしていくかというようなことを考えることも必要になってきます。非常に難問ですが、だからこそやりがいもあるという課題です。

因みに、この日本UNEP協会が産声を上げた2015年は、記念すべき年です。国際連合は2000年のミレニアム総会において、2015年に向けた ミレニアム開発目標(MDGs: Millennium Development Goals)という8つのゴールと21の数値目標を定めました。その開発目標の中身は、貧困と飢餓の撲滅や、初等教育の普及、環境の持続性の確保など、ベーシックなニーズを取り上げ、2015年までに何を達成するかを判りやすく示したものでした。このMDGsの最終年度に当たった2015年の9月には、国連特別サミットにおいて、このMDGsを引き継ぐ持続可能な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)2030アジェンダとして制定されました。15年後に向けた持続可能な開発目標です。今回は17のゴールと169のターゲットという巨大なものとなっていますが、これをベースに今後の持続可能な社会像の議論を進めることとなるでしょう。この2030アジェンダを具体的な事業や計画に落とし込む作業も、環境分野のみではなく、広く行われていかなくてはなりません。

今後の日本UNEP協会のビジョン

今の段階としては、まだスタートしたばかりですから、まずは皆さんに協会ができたということを認識してもらい、関心を持って集まって頂くことが大事ですね。環境全般を考えると、協会で何ができるかという点では、協会がこういうことをやっているから協力する、というよりは、協会に参画していただき、それぞれの方々の関心に応じて協会の活動が設定されていくという、そんな形になっていかなければと考えています。ですから、関心のある方は今すぐ何ができるかということよりも、まず集まっていただいて、その中から、たとえばアジア地域の森林をなんとかしなければならい、あるいは乾燥地、砂漠化しているところに対して日本は何をすべきか、急激な開発が進む途上国の都市への人口集中によっておこる問題をどう考えるかなど、それぞれに対してどういう取り組みが出来るかという検討の上に、必要に応じてプロジェクトが形成されていくものでしょう。

究極的には、人類はその地域に存在する自然環境・生物生態系が提供する恩恵(サービス)を受けて初めて生存できているわけです。そして地域の環境は、それを包み込むより大きな環境、最終的には地球環境の枠内でしか成り立ちません。それらをどういう形で保全していけばよいか、さまざまな検討がなされなければならないはずです。また、環境に関する専門家の方々の知識や発表が、一般の市民や国民にはなかなか伝わってこない面もあるかもしれません。そういった面も、協会を通じて皆さんが学んでいくことができればと考えています。

先にも述べましたが、民間企業・民間団体の方々も、CSRから一歩進んで、CGRを形にされて行くことが必要でしょう。このような場合にも、協会がそのプラットフォームになれると良いと思います。それぞれの参加者がそれぞれの特徴を活かして、考えていることをぶつけ合うことを通じて、自己変革も可能なイベントや研究会などの実現も、日本UNEP協会がお手伝いできるようになればと思います。幅広い方々のご協力と参加が、日本UNEP協会に数えきれないくらい可能性を与えるわけです。

最後に…

日本のUNEPに対する関心度は、世界の国々に比べ著しく低いということがよく言われております。これは、誠に残念なことではありますが、逆に言えば、これを高めていくということが、同時に、世界的な環境問題に関わる日本の意識改革に繋がっていくことになるでしょう。

政府(環境省、外務省)を通じてのパイプだけではなく、日本とUNEPの間のつながりをより広げていくためには民間の力を動員する必要があります。日本UNEP協会がその架け橋となり、民間企業や一般国民の方々のUNEPへの認識を高め、グローバルな環境活動への参加意識を高めることができればと願っています。環境への関心が低いと思われていた日本が、いつの間にか世界を引っ張るくらいになれれば大成功だろうと考えています。

簡単ではないですが、少しずつでも変えていくしかありません。かつての経済成長第一の楽しい時代から、将来の地球、将来の世代のために「貢献する喜び」を味わうことがやりがいとなる――そんな時代になりつつあるのですから。

Pageのトップに戻る